チャオログ

もろもろのはなし。文脈から切り離されたなにか。思考のログ。8割はうそ。

上司ロシアンルーレット

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あるいっとき上司だった人のことを久々に思い出した。最後まであまり話したことのない上司だった。優しい人だったように思うが、あまりいっしょのプロジェクトに入ることがなかった。性別のちがいや、年の差もあって、私は他の若手男性社員ほどはかわいがられてなかったような気もする。逆にいうと、若い女の子を無理に飲みに誘ったりしない思慮深い人だった。

私とそのひとの関係は複雑で、まぎれもなく上司と部下だったのに、関係性を築いてるような築いてないような感じだった。私は彼を上司としてとても尊敬していたし信頼していたが、なんかずっと距離感が縮まらない感じにもはやウケていた。けどいろんな人からあのひとはおまえのことかわいがってるぜ、というようなことを言われて、どこがやねんほぼ話したことないわいって返すのがおきまりのネタみたいになっていた。思春期の娘みたいなかんじ?いや例えとして全然正しくないけど。

私が職場を離れる日、飲み会の帰りにタクシーで送ってくれて、何を話したかも覚えていないけど、その二人の時間は特別だった。別れるのが寂しかったけど、二人だけで話したいこともそんなになかった。私の家の前について、じゃあこれからもがんばるんだよと言われて、別れた。そのとき、(全然ラブリーな意味とかじゃなく)一瞬だけ特別な空気が流れて、びっくりしたけど心のどこかでそういう別れになる予感があった。最後のときにためらいなく互いの予感を掬い上げることができるのがこのひとのモテの才能なのかなとぼんやりと思った。いままでにも何人か、「これが最後の別れになる」という瞬間に、ぐっと体温を引き上げる別れ方をしたひとたちのことははっきりと覚えている。それが中学生のときでも、大学生のときでも、大人になってからでも、さよならが印象的だったひとのことは忘れることができない。前述の上司の場合、「ただの職場の人」にも関わらず(実際本当に仲良くなかった)、こんなさよならの仕方をされたので私の心には切ない思い出として刻まれてしまった。特にお世話になってもいないので日常で思い出すことはほぼないけど、今後いろんな上司と出会うたびに彼との別れの刹那が頭をよぎるのかもと思う。

 

私の男 (文春文庫)

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